2022年7月 素材研究
プロダクト環境:素材の特性に向き合い見出されたプロダクトを制作する。
制作の経緯
人間の活動が海の環境を大きく変化させている。地球上の一生物にすぎない私たちが、なぜ他の生物にまで深刻な影響を与えているのか。​本制作では、以下の二つの海の環境問題をテーマに、海藻・海草と釣り糸を織り合わせることで、その現状に目を向けるプロダクトを制作した。

リサーチ
海岸で打ち上げられたものを採集し、「海藻」と「海草」の違いを調べた。​

海藻:藻類。根・茎・葉の区別がない。

海草:種子植物。根・茎・葉がある。

英語でも日本語でも、「海藻」と「海草」の違いはあまり認識されておらず、"seaweed"(雑草のような意味合い)として一括りにされている。今回の作品では、"weed" が持つ「不要なもの」というニュアンスを活かし、"seaweed woven fabric" と名付けた。​​​​​​​
試作
糸と絡めて編む:網に引っかかった海藻のような印象。面をつくりやすい。
ワカメのみで編む:ぬめりがあり扱いにくく、乾燥すると変形。
水で戻してアイロンで圧縮:不規則な模様が出るが、量が必要。
糸で織る:規則的な折り目だが、乾燥時に隙間ができる。切り昆布が扱いやすい。
本制作
縦糸には、しなやかで色展開の多いポリエチレン製の釣り糸を使用した。
採取した海藻は砂や塩を丁寧に洗い流し、天日干しにする。
水分を含んだ海藻はすぐに千切れやすく、扱いづらかったため、定規と竹串を用いて丁寧に織った。​

完成
海藻
縦糸:色がメートルごとに切り替わる8号釣り糸と透明な4号テグス
横糸:切り昆布

→ 赤・橙・青・緑・茶・透明の釣り糸と昆布の重なりが、多様な表情をつくった


海草
縦糸:オレンジの4.5号釣り糸、グレーの4号釣り糸
横糸:アマモ、ホンダワラ、切り昆布

→ 海草の乾燥によって幅が縮み、釣り糸が波打つ発見があった。
最後に
海藻や釣り糸と向き合いながら織る中で、素材の特性そのものが作品の方向性を導いてくれる瞬間が何度もあった。乾燥による縮みや、滑りやすさ、太さの不均一さといった扱いにくさの中に、むしろその素材ならではの魅力があり、それらを受け入れながら布にしていった。海藻という自然物と、釣り糸という人工物。まったく性質の異なる素材同士を組み合わせることで、それぞれの素材に新たな意味が生まれていくと感じた。織りの中に現れた揺らぎや変化の痕跡こそが、この作品の核であり、素材と向き合った時間の証でもある。


現状報告
海藻
2025年4月撮影
海藻の青みが抜け、黄みが増した。しなやかで軽い手触りは変わらず、潮の香りが少し残る。
海草
2025年4月撮影
海藻の青みが抜け、黄みが増した。釣り糸のオレンジ色によって、より黄みが強調されている。暗所に保管していたため、特に劣化などはなく、触れて崩れることもない。
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